メディア学科卒・エンタメ大好き女子が独自の視点で書き綴ります✎☡ 𓂃𓈒𓏸(記事中敬称略させて頂いております)

【ドラマコラム】食をテーマにしたミステリードラマ『美食探偵 明智五郎』が深い

4月12日から始まった『美食探偵 明智五郎』。『東京タラレバ娘』や、『偽装不倫』など、数々の映像化を生み出してきた漫画家・東村アキコの漫画が元になっている。中村倫也演じる明智五郎は、お金持ちのお坊ちゃん。そして、美食家な探偵。若者が好む、〈お金持ちの煌びやかな世界〉と、主婦層が好む〈食テロ〉を融合した全方位ウケのドラマだ。ミステリー要素もあるが、コメディ路線のシーンが多く、テンポもいいので、ミステリーが苦手な人でも観れる作品になっている。

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 このドラマには、「もし、明日殺されてしまうとしたら、あなたは最後に何を食べますか?」という問いかけが入る。明智五郎は、美味しいものを食べるたびに、〈最後の晩餐リスト〉にその食事を書き入れる。しかし、「これが最後の晩餐だって意識して食べられる人なんて、どれくらいいるのだろうか?」。

 1話完結で事件が解決していくが、1話に出演した夫の浮気調査を依頼したおとなしい主婦(小池栄子)は、殺人鬼マリアとなり、2話からの殺人に手を加えていくため、物語のキーマンとなる。この主婦が覚醒した理由は、明智五郎の「思うように生きたらいい」という言葉。そのことに責任を感じた明智五郎は、マリアの暴走を止めるために奮闘する。マリアも、自分を変えてくれた明智五郎を恋しく思い、近くで殺人を行って明智五郎を引き寄せる。この二人の攻防は、1話ごとに繰り広げられる事件の真相とともに、見所となっている。

 事件の真相には、全て〈食〉が関わっている。

 1話でマリアが殺したのは、夫。若い女の家で、ご飯を食べていたことに憤りを感じたため、殺人を犯した。普通に考えれば、若い女の家に行っていたことが理由に思えるが、自分と食べるのは、「美味しいとも言わずにただ食欲を満たすだけの食事」だったのにも関わらず、若い女の家で食べていたのは、スパイスなど遊び心がきいたメニュー。そこに憤りを感じたようだ。

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 2話で志田未来演じるリンゴ農家の娘・古川茜が殺したのは、彼氏とその浮気相手。中学からの同級生だったが、遠距離恋愛になり、彼氏は浮気をしてしまう。それを発見したのが、SNS。浮気相手が、茜が作ったとは知らずに載せたリンゴジャムの写真だった。このドラマの事件の真相は、どれも深いが、この回は、一番色々な感情が入り混じっていたように感じる。

殺害方法は、二人が宿泊しているホテルのブレークファーストに、マリアが毒入りのリンゴジャムをかける。この、リンゴジャムを作ったのが、茜だった。しかし、茜は、彼氏を殺害するつもりはなかった。リンゴジャムに毒を入れたら死んでしまうだろ!と言いたいところだが、自分の彼氏は、リンゴジャムを食べるはずがないと思っていたのだ。その理由は、自分が一生懸命作ったジャムを、「リンゴジャムは飽きた」と言って、いつも腐らせていたから。それなのに、高級ホテルで出されたものは同じものでも食べるんだ…と泣き崩れる。明智五郎は、「料理とはそういうものです。同じ材料、同じ味付けでも、美しい皿やサーブする人間の演出によって、いくらでもその価値は変わる」という励ましなのかよく分からないアドバイスを送る。しかし、恋人には、高級ホテルのジャムよりも、「お前が作ったものが一番だ」と言ってもらいたいものだ。

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 3話の事件は、これまでとは異なり、「仕事」が理由となっている。事件の主役も、武田真治演じるシェフなので男性。グルメサイトで悪評をつけられ、客のキャンセルが相次ぎ、悪評をつけた客を炙り出して、殺害する。このアドバイスを送ったのも、マリア。「仕事」を否定されたことで殺人を犯す男と、「恋愛」で惨めさを感じて殺人を犯す女。殺人を犯してしまったシェフに対して、「僕は悔しい。どうしてあなたほどの人間が、くだらない悪意の前に屈してしまったのか。あなたなら、この狂った街に抗えたはずなのに」と声を掛けた明智五郎。マリアよりも先に、明智五郎に出会っていたなら、シェフは殺人を犯さずに、批判をさせないくらい料理の腕をあげることに尽力したのではないかと思ってしまう。

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 4話は、仲里依紗演じる主婦みどりが起こした事件。真っ白な冷蔵庫を、夫のために作った美味しい料理で埋め尽くすことが夢だったみどり。しかし、夫の母から、度々送られてくる〈お袋の味〉で、冷蔵庫が埋め尽くされてしまう。みどりが作っていた洋食は、「身体に悪い」と言われ、砂糖たっぷりの煮物を「美味しい」と言って食べる夫に嫌気がさしたみどりは、ネットで見つけたサイトに相談をする。そのサイトを運営していたマリアに、「可哀想」と煽られて夫を殺害してしまう。

義母からの好意は、息子からしたら好意だったのかもしれないが、嫁からしたら悪意だったのだろう。一生、〈お袋の味〉に振り回されてしまうような気分になったのではないか。

明智五郎の、「誰かにとっての好意は、誰かにとっては悪意になるのかもしれない」という言葉は、肝に命じていきたいと思う。

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 4話までを振り返って思ったことは、全ての真相が〈深い〉ということ。しかし、人間の中で、〈食〉というものは、切っても切り離せないもの。ともに食事を楽しめることこそが、一番相性がいい相手なのかもしれない。そして、最愛の人が浮気をすること以上に、他の人と〈食〉を楽しむことが、女にとって一番辛いことなのかもしれない。